妊娠しやすい女性には1ヶ月に1回のペースで排卵が起こり妊娠のチャンスが訪れます。この排卵が、数ヶ月に1回になることを、稀発排卵といい、まったく排卵が起こらなくなることを、無排卵といいます。こうなると妊娠は望めません。
排卵は、脳の視床下部、脳下垂体、卵巣の3者がうまく連携して初めて起こります。このいずれに異常があっても無排卵となります。また視床下部は大脳皮質の影響を受けますので、強いストレスも無排卵の原因となります。
排卵の異常は、女性の不妊原因としては2番目に多いものです。
規則正しく排卵が起こりますと、規則正しく月経(生理)が発来します。ですから月経が不規則な方は、排卵がうまく起こっていない可能性があります。一般に、基礎体温表できっちりと2相性になっていれば排卵が起こっていると考えます。
しかし例外的に1相性でも排卵があったり、2相性でも排卵がない場合もあります。
排卵因子による不妊症の原因としては、以下のものがあげられます。
排卵が起こりにくくなる原因として、最も多いのは多嚢胞卵巣症候群です。
ここからは、排卵異常の原因について説明していきます。
下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(FSH,LH)や視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)に異常があることで起こる排卵障害です。どちらも脳にあり、卵巣における排卵を調節する機能を持つため中枢性の排卵障害とも言われます。この中では体重減少やストレスなどの機能的障害の頻度が高くなります。
血液検査で血中ホルモンの値を調べることで診断されます。LHやFSHの値が低い場合には、視床下部や脳下垂体の機能低下が疑われます。
肥満ややせが、無排卵の原因となることがあります。ボディマスインデックス(BMI)が正常範囲の方は、妊娠しやすいと考えられます。
このBMIとは、体重を身長の2乗で割った値であり、20~24kg/㎡を正常値とします。
例えば、体重50kg、身長160cmとしますと、50÷1.6÷1.6=19.5となり、ほぼ正常値と言えます。
初潮はボディマスインデックスが19以上にならないと起こりにくいと言われています。
レプチンとは脂肪細胞が産生する満腹ホルモンとも言われるもので、満腹になるとたくさん分泌され、脳に作用し、食欲が低下して性腺刺激ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌が盛んになります。
従って、極端なダイエットは慢性空腹状態となり、レプチンの分泌を低下させ、ひいては性腺刺激ホルモン(FSH,LH)の分泌や、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する結果、無排卵、無月経や甲状腺機能低下を引き起こします。
無排卵症の原因として最も多いものです。
慢性的な男性ホルモン過剰状態が特徴で、高アンドロゲン性慢性排卵障害とも呼ばれます。卵巣にたくさんの小嚢胞が見られます。
多くの研究者が原因を調べていますが、未だに不明で謎の多い疾患です。
超音波検査で、卵巣にたくさんの小嚢胞が見られる場合に診断されます。卵胞が連なって見えるので、ネックレスサインとも呼ばれます。血液検査では、高男性ホルモンの他に高LH、高PRLがみられることがあります。
月経周期が長くなるか、無月経となります。
症状の強い例では、無排卵に加えて、肥満や、ニキビ、多毛などの男性化がみられます。
多嚢胞卵巣症候群の方で肥満の方は、将来、糖尿病を合併しやすいと考えられています。
卵巣の中には、卵子のもとである原始卵胞がたくさんつまっていて、片側の卵巣に1個の卵胞が発育し、やがて卵胞が破裂し排卵が起こります。
この原始卵胞が極端に少なくなり、排卵が起こりにくくなる状態を、卵巣性無排卵といいます。
無排卵症の中でも最も治療の難しいタイプです。
血液検査で診断されます。卵巣の中の原始卵胞が少なくなると、血液中のFSH(卵巣刺激ホルモン)が増加します。FSHの基礎値(生理周期2~5日目の値)が10IU/L以上は、原始卵胞の減少を意味しています。
卵胞が成長して排卵期が来ても、卵胞が破裂せず、排卵が起こらないままに卵胞が黄体へと変化する症状です。基礎体温は2相性となり、排卵が起こっているように見えます。
超音波検査で連続して卵胞を観察することで診断されます。
プロラクチン(PRL)とは、乳汁分泌ホルモンとも言われるもので、出産すると脳下垂体から大量に分泌され、母乳が出る仕組みになっています。
また大量に分泌される授乳期間中は排卵が起こらなくなります。
高プロラクチン(PRL)血症とは、このプロラクチンの分泌が増加する症状で、無排卵や黄体機能不全の原因となります。自覚症状として乳汁の分泌が見られる方もあります。
高プロラクチン血症の原因としては、ストレス、甲状腺機能低下、多嚢胞卵巣症候群、脳下垂体のプロラクチン産生腫瘍などが考えられます。胃薬や精神安定剤などの薬剤が原因の場合もあります。
血液検査でプロラクチン値を調べます。この値はかなり変動しやすく、心理的なものやストレスも影響します。初診時や内診後、あるいは乳房の触診の後では値が高く出る場合がありますので、治療の前には再検査をします。
甲状腺機能の異常には、2通りがあります。
一つは、甲状腺機能が亢進してホルモンの分泌が増加する甲状腺機能亢進症で、代表的なものにはバセドウ病があります。
もう一つは、甲状腺機能が低下して必要なホルモンの分泌が減少する甲状腺機能低下症で、代表的なものには橋本病があります。
いずれも無排卵症や流産の原因となります。
甲状腺機能異常を引き起こす原因としては、ストレスなどが考えられます。甲状腺機能低下の場合は、やせすぎが原因となることもあります。
血液検査で、甲状腺ホルモン(HL)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を調べることで診断されます。
TSHの値が高い場合は甲状腺機能低下症が疑われます。