不妊治療の知識

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子宮内膜症

子宮内膜症ってどんな病気?

子宮内膜とよく似た組織が別の場所で増殖してしまう病気です。

子宮内膜は受精卵が着床し、発育するところです。したがって、本来子宮の内側だけにあるものですが、この子宮内膜と同じような組織がダグラス、腹膜、卵巣、子宮筋層内など別の場所で増殖してしまうことがあります。これが子宮内膜症です。
子宮内膜症の組織は子宮内膜と同じような性質があるため、女性ホルモンのエストロゲンの影響を受け、月経と一致して、あるいはそれ以外の時期にも出血します。しかし、子宮の内側とは違って、別の場所で起こった出血は外へ流れ出ることができないため、組織内にたまってしまい、様々な障害を引き起こします。
子宮内膜症の原因ははっきりわかっていません。現在考えられている原因としては、月経時、ある程度は月経血が卵管を逆流して腹腔内に入ってしまうのですが、その際子宮内膜組織の一部が卵管を通って他の部位に流れ着いて生育するという説や、子宮内膜組織が血液やリンパの流れに乗って全身にまわるという説や、腹膜が変化してものであるという説などがあります。

月経痛などの痛みが主な症状です。

子宮内膜症の症状として最も多いものは、月経困難症です。月経痛がどんどんひどくなるようだとこの病気が疑われます。その他、月経以外の下腹痛、腹痛、性交痛、排尿痛、腰痛などが主な症状としてみられます。20~30歳代の女性に最も多く見られ、年々増える傾向にあると言われます。

不妊の原因にもなります。

子宮内膜症は不妊の原因にもなります。子宮内膜症患者さんの約20~30%が不妊を訴え、逆に不妊症患者さんの40~50%に子宮内膜症が認められます。子宮内膜症のために、卵巣の機能が低下して排卵が起こりにくくなったり、卵管の癒着がおこり、せっかく排卵した卵を卵管がうまく捕捉できないことなどが不妊の一つの原因となっていると思われます。

 

子宮内膜症の診断・検査方法は?

主な診断・検査法
問診

自覚症状を詳しく調べることで見当をつけることができます。特に月経に関して、痛みの状態をよく覚えていただいていると、診断の助けになります。

内診

内診で痛みの部位を確認したり、子宮・卵巣の大きさや硬さなどに異常がないかを調べます。

超音波検査(エコー)

主に卵巣と子宮の状態を調べます。卵巣では腫れ具合、とくにチョコレート嚢胞の有無や状態を、子宮は大きさや形状を調べます。基本的には、内診に引き続いて経膣エコー(膣からエコーの器械を挿入)の検査となりますが、性交経験のない方には、経直腸エコー(肛門からエコーの器械を挿入)や経腹エコー(お腹の上からのエコー)を行います。ただし、軽度の子宮内膜症の場合は、エコーで病変を見つけることは困難です。

CT検査・MRI検査

腹部の画像診断です。子宮内膜症ではチョコレート嚢胞を有することが多いのですが、エコーの画像では他の卵巣腫瘍や卵巣癌と鑑別が難しいことがあり、そのような場合に画像診断が大変有用です。

腹腔鏡検査

全身麻酔をした上で、腹部に小さな穴を開け、そこから内視鏡(医療用カメラ)を入れて、直接病変を観察します。画像診断ではわからない小さな病変や癒着を起こしている部位なども分かりますので、確定診断のために行われます。

血液検査

卵巣腫瘍では血中に特定の物質が増えることがありますが、子宮内膜症でもCA125やCA19-9などの腫瘍マーカーという物質が増えることが知られています。血液を採取してこれらの値を調べます。

 

子宮内膜症の治療は?

いろいろな治療法がありますが、病気の進み具合や症状の程度、患者さんのライフプラン(特に挙児希望かどうか)などを総合的にみて、その患者さんに最も合った治療を選択します。

お薬でのコントロール
鎮痛剤

激しい痛みを抑えるために、対症療法(症状を抑えるだけの治療)として鎮痛剤が用いられます。

GnRHアゴニスト

注射薬と点鼻薬があります。注射薬は4週に1回、腹部などの皮下に注射するもので、点鼻薬は鼻腔内に液を毎日噴霧するものです。この薬によって、排卵を抑制してエストロゲン(卵胞から出る女性ホルモン)の分泌を抑え、子宮内膜症組織を小さくし、症状を改善します。治療開始時に一時的にエストロゲンの分泌が増えるので、不正出血を起こすことがありますが、薬を続けていると出血はおさまり、治療を続けている間の月経はなくなります。
主な副作用は、エストロゲン濃度が低くなるため更年期障害に似た症状(ほてり、発汗、イライラなど)が出やすいことと、長期間の使用により骨密度が下がって骨粗鬆症を起こす可能性があることで、このため薬の連続使用は通常、約半年間です。

アドバック療法

上記のGnRHアゴニストを使う際、エストロゲン濃度が低くなりすぎて起こる副作用を軽減するため、エストロゲン補充を行うことを言います。血中エストロゲン濃度を30~80pg/mlに保つのが理想ですが、不正出血を伴う事が多いという問題点もあります。

ダナゾール

男性ホルモに似た薬です。エストロゲンのレベルを下げ、また子宮内膜組織に直接働きかけることで効果を発揮します。副作用として、体重増加や肝臓に異常でたりすることがありますので注意をします。

ピル

月経困難症の改善のために、避妊用に開発された低容量ピルを内服する方法です。低容量ピルは、排卵は抑えますが月経様の出血は28日周期で起こります。この方法で出血量、痛みともに減少させ、子宮内膜症の病変を改善することが可能です。副作用も少なく効果も期待出来ますので、有望な治療です。しかし残念ながら今のところ、低容量ピルに関しては保険診療は認められておらず自費診療(1ヵ月分2500円から3000円)となります。

漢方薬

月経困難症の症状を和らげる効果があります。桂枝茯苓丸や当帰芍約散がよく処方されます。副作用が殆ど無いという利点があります。効果はマイルドです。

内視鏡や手術による病変の除去

病気がかなり進行している場合は、病変部を除去する手術が必要になることがあります。

チョコレート嚢胞アルコール固定法

卵巣にできたチョコレート嚢腫の中身を吸引した後に高濃度のアルコールを注入し、内部の子宮内膜症組織を不活化さ る方法です。通常は静脈麻酔で行い日帰りでできます。

腹腔鏡手術

通常、腹腔鏡検査に引き続いて行われます。電気メスで病変部を焼いたり、チョコレート嚢胞を除去したりします。

開腹術

腹腔鏡による対応が難しい場合には、腹壁を切開して開腹し、病変を直接手術によって取り除きます。以上のような治療法がありますが、子宮内膜症を完全に治すのは難しく、薬や手術を行っても再発する可能性があります。従って子宮内膜症は根本的に治そうと考えるよりも、上手に子宮内膜症とお付き合いして頂きたいと思います。閉経が近づくと基本的に子宮内膜症は自然に改善し、閉経後には大抵自然に治癒します。

 

子宮内膜症と女性のライフスタイル

子宮内膜症は20~40歳代の女性に起こりやすい病気ですが、近年患者数は増えており、12万人を越えています。子宮内膜症患者の増加には、女性のライフスタイルの変化が大きく関わっていると考えられます。女性ホルモンの影響で月経がおこるたびに、子宮内膜症の病変は出血を繰り返すため、どんどん悪化します。逆に、月経の止まっている妊娠中や閉経後は子宮内膜症は改善します。昔は、一人の女性が妊娠・出産する回数は今よりもずっと多く、6~7人子供を産む女性も珍しくありませんでした。そうした女性は月経が止まっている期間が長く、子宮内膜症の悪化が自然に予防されていたことになるのです。近年は初潮年齢の低年齢化、晩婚化、少子化により一人の女性が一生の間に経験する月経の回数は昔と比べて圧倒的に増えました。そのため、子宮内膜症が悪化しやすいと考えられます。

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